地震で隣のお墓が倒れ自分のお墓が傷ついた!誰が責任をとってくれるの?
こんにちは。兵庫県神戸市兵庫区にある株式会社第一石材の能島です。
(一社)日本石材産業協会認定の「1級お墓ディレクター」です。
のじま
お墓は頑丈で、ちょっとやそっとじゃ倒れないと思っている方も少ないでしょう。
しかし、しっかりとした地震対策がなされていないと、意外と簡単に倒れてしまうのです。
とりわけ、1995年(平成7年)に当社第一石材がある兵庫県で発生した「阪神・淡路大震災」以前に建てられお墓なら、“震度5弱”程度の揺れで倒壊のおそれがあります。
その中でも、四角い石を数段積み重ねた昔からある「和型墓石」は重心が高いため、特に地震に弱い傾向にあります。
大きな地震があるたびに、お墓が倒れた墓地の様子がニュースなどの映像で映し出されるので、ご存じの方も多いかと思います。
かといって、最近建てたお墓なら絶対安心というわけではありません。
お墓の工事には、住宅やマンションと違い建築基準法のような法律がありません。
つまり、地震に強いお墓になるか?簡単に倒れるお墓になるか?は石材店次第ということです。
ということは、地震が起こったときに、自分のお墓は大丈夫であっても、「隣のお墓が倒れてきたせいで、自分のお墓が傷ついてしまった」なんてことも考えられるわけです。
もし、そんなことになったら、いったい誰が責任をとってくれるのでしょうか?
業界紙である日本石材工業新聞に法律の専門家が解説した記事が掲載されておりましたので、引用の上ご紹介させていただきます。
目次
1.隣のお墓倒壊が原因での墓石のキズ!誰が責任をとってくれるのか?
地震で隣のお墓が倒れて、自分のお墓が傷つけられてしまいました。
このような場合、隣のお墓の所有者に責任はあるのでしょうか?
相談者
お墓の所在する場所の地形や震度によって異なりますが、震度がごく弱い所でお墓が倒壊した場合には、その所有者に損害賠償(金銭の請求)や回復を求めることができるでしょう。
震度が大きな場所では、不可抗力の天災によるものなどで、責任を追及することはできません。
その基準は、おおよそ、「震度5弱」もしくは「震度4」であると考えます。
法律家
【解説】お墓の耐震性と安全性お墓は、土地に接着して築造されているので、法律的には建物と同じように「土地の工作物」になります。
そして、土地の工作物を設置や管理することに工完全な点(欠陥)がある場合には、その占有者や所有者には、土地の工作物が倒壊するなどして第三者に損害を与えた場合には、損害賠償責任を負担します(民法717条)。
但し、占有者は、損害発生のおそれを防止している場合には責任を免れます。
問題は、お墓の耐震性すなわち、どの程度の地震の震度に耐えれるものであれば、設置や管理に欠陥がないといえるかです。
2.隣のお墓倒壊が原因での墓石のキズ!裁判すればどうなるの?
これは難しい問題ですが、建物や宅地造成についての被災の責任が問題とされた判例(お墓の倒壊について争われた判例は調査した範囲では見当たりません)は、建物や宅地造成では通常発生することが予想される「震度5」程度の地震に対する耐震性があることが安全性の基準であり、それを欠いた場合に欠陥があるとして、占有者・所有者に責任を認めています。(以下、参考判例①②③)
参考判例①/仙台地判1992年(平成4年)4月8日(判例時報1446号98頁)≪事案≫宮崎県沖地震が1978年(昭和53年)に発生したが、その際に造成された宅地が陥没して建物が倒壊したため、宅地の所有者が造成した業者等に宅地造成に欠陥があったとして、瑕疵担保責任に基づく損害賠償を求めたケース。
≪判旨≫瑕疵の存否は、一般常識的見地から、少なくとも「震度5程」度の地震に耐えうるかを基準として判断するのが相当としたうえ、当該宅地が「震度5」に耐えられる強度を有していたと認定して、業者の損害賠償責任を否定した。
参考判例②/仙台地判1996年(平成8年)6月11日(判例時報1625号85頁)≪事案≫宮崎沖地震で倒壊した宅地を造成した仙台市に対し宅地を購入した住居者が造成に欠陥があるとして損害賠償請求をしたケース。
≪判旨≫造成された宅地が、予測される規模の地震に対する耐震性を欠いていた場合には瑕疵があるとし、当該住宅は「震度5」程度の地震に耐え得る程度の強度を有していたと認定して、責任を否定した。
参考判例③/神戸地判1999年(平成11年)9月20日(判例時報1716号105頁)≪事案≫1995年(平成7年)に発生した「阪神・淡路大震災」により、1階部分が押しつぶされた賃貸マンションの住民が死傷等したことに伴い、そのマンションが地震等の水平力に対する抵抗力が皆無の危険な建物であり、設置に瑕疵があるとして、建物所有者に対する土地工作物責任に基づく損害賠償請求を求めたケース。
≪判旨≫当該マンションが1964年(昭和39年)に建築され、補強コンクリートブロック造の構造をしていたところ、設計上も壁厚や壁量が不十分であり、実際上の施工にも鉄筋の量が不足している等の不備があり、建設当時を基準として考えても安全性に欠け、設置に瑕疵があったとした。
その上で、「阪神・淡路大震災」が、現行の設計震度を上回る揺れの地震であっても(「震度7」であった)、通常の安全性を備えていれば1階部分が押しつぶされて倒壊することはなかったとして、所有者の責任を認めた。
但し、自然力と競合して倒壊したことから、賠償金額の減額を認めた。
3.隣のお墓倒壊が原因での墓石のキズ!東日本大震災の場合はどうなるの?
建物建築や宅地造成には法令上耐震性の基準があり、墓地とは異なる面があります。
したがって、建物や宅地造成についての判例の基準がそのまま適用されることはないでしょう。
しかし、以下の参考判例④は、ブロック塀が倒壊した事案について、安全性の基準として「震度5」に耐えられることをあげているので、墓地・墓石に類似することから、安全性の判断基準は、ほぼ同一のものになるという見解もありうるでしょう。
ただし、宗教的・歴史的にみて、墓地・墓石の形状はある程度限定され、建物などと同じ水準の耐震性・安定性は、社会的には求められてはいないと思います。
そこで、「震度5弱」もしくは「震度4」に耐えられない場合には、安全性にかけるということになる、という見解に改めたいと考えます。
「震度5」を超えるような大地震が発生した場合、ほとんどの墓石が転倒すると考えられるものであり、そのような場合には不可抗力による被害であり、隣地墓地の所有者に責任を問うことはできないと思います。
ましてや、2011年(平成23年)に発生した「東日本大震災」のように、津波が発生したりして墓石が倒壊したような地域では、誰に対しても法律的責任を追求することができないのは当然です。
参考判例④/仙台地判1981年(昭和56年)5月8日(判例時報1007号30頁)≪事案≫「宮城県沖地震」で倒壊したブロック塀の下敷きによる死亡事故につき、ブロック塀の所有者に、ブロック塀の設置・保存に瑕疵があるとして、土地工作物責任に基づく損害賠償請求を求めたケース。
≪判旨≫ブロック塀が築造された当時、通常発生することが予想された地震動に耐えうる安全性を有していたか否かを基準に、そのような安全性が欠けていた場合に瑕疵があると判断したうえ、当該ブロック塀が「震度5」の地震に耐えうる安全性が欠けていたことの立証がなされていないとして、責任を否定した。
【引用・参考文献】日本石材工業新聞/第1910号(日本石材工業新聞社発行)
4.まとめ
今回の記事は、地震で隣のお墓が倒れ自分のお墓が傷ついた場合は誰が責任をとってくれるのか?という問題について、少々前の記事になりますが、業界紙である日本石材工業新聞に掲載されていた法律の専門家の見解記事をご紹介させていただきました。
結論から申し上げますと、隣のお墓の所有者に責任追及するのはなかなか難しそうですね。
ただ、お墓は簡単に引っ越しすることができないため、お盆やお彼岸などのお墓参りの際には、お隣のお墓の所有者と顔を合わすことがないとは言えません。
もし、傷をつけた加害者の立場になってしまたら、法的な責任を負うことはなくとも、気まずい思いをすることになるでしょう。
そんなことにならないためには、いつどこで大きな地震が起こっても不思議ではない地震大国日本においては、お墓にも可能な限りの地震対策が必要だということです。
現在では、すでに建っているお墓であっても、数万円程度で施工可能な免震施工もありますし、これから新しくお墓を建てられる方なら、免震施工に加え、建築レベルの鉄筋コンクリート基礎工事も不可欠です。
いずれにしても、「震度7」クラスの大地震にも対応した地震対策を施しておくべきです。
そのためには、「石材店選び」がすべてであると言っても過言ではありません。
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