国産墓石で建てたお墓が偽物!「石材産地偽装事件」の実態
「どうせなら国産の石でお墓を建てたい!」
こんなふうに考えている方は意外と多いのです。
こんにちは。(一社)日本石材産業協会認定「1級お墓ディレクター」の能島孝志です。
兵庫県神戸市で、“カロート(納骨室)に水が入らない特許構造墓石”『信頼棺®』を販売する、(株)第一石材の代表を務めさせていただいております。
能島
今や日本国内に流通しているお墓の大半が中国でつくられている状況の中でも、やはり国産墓石にこだわる方は数多くいらっしゃいます。
その理由は、やはり安心感です。
たしかに、お墓だけに限らず、クルマや家電製品なども日本の製品を買っておけば間違いないですから。
ましてや、お墓は買い替えするものではないだけに、なおさらのことかもしれませんね。
そんな国産墓石ですが、必ずしも安心とは言えないのです。
「えっ!」って思われるかもしれませんが事実なのです。
そこで、今回の記事は、実際に起こった「石材産地偽装事件」についてご紹介させていただきます。
目次
1.2009年に大阪府の霊園で発生した「石材産地偽装事件」
2009年(平成21年)に大阪府の霊園で発生した「石材産地偽装事件」
これは、トラブルというより、れっきとした犯罪行為です。
マスコミでも大きく取り上げられたので、ご存じの方も多いはずです。
これは実際に起こった事件で、2010年2月25日にテレビ朝日系列の「NEWSゆう」にて“ウラドリ新たなる産地偽装”として放送され、2010年5月7日付けの讀賣新聞にも「墓石販売 信用にヒビ」として大きく取り上げられました。
では、この「墓石の産地偽装事件」のあらましをご紹介いたします。
大阪府豊中市の会社員Aさん(当時32才)は、亡くなったお父様を供養するために、大阪市内の墓石業者から350万円で墓石を購入しました。
特に父を早く亡くしたので、お墓くらいはできるだけ良いものを・・・
Aさん
Aさんご夫妻が選んだのは、国産の高級銘石「大島石」です。
その中でも最高ランクの石を指定して購入したはずでした。
「大島石」とは、愛媛県北部の瀬戸内海に浮かぶ“大島”という島で産出される高級石材です。
“石の貴婦人”と称され、墓石だけに限らず、国会議事堂や赤坂迎賓館など数多くの有名建築物にも使われている銘石です。
そして、墓石建立後まもなくにもかかわらず、「花立が外れる」「墓誌(霊標)がぐらつく」などの不具合があり、施工不良ではないか?と不信感を抱いたAさんご夫妻は一般社団法人日本石材産業協会に調査を依頼したのです。
2.同協会副会長の射場一之が氏がA家の墓石鑑定
Aさんから依頼を受けた一般社団法人日本石材産業協会は、当時の副会長であった射場一之(いば かつゆき)氏がA家の墓石を鑑定いたしました。
結果は、なんと「大島石」ではなく、韓国産のみかげ石「陰城(いんじょう)」だったのです。
本物の「大島石」は「陰城」と比較すると、石のキメが細かく色目も違います。
価格も大島石と比べると半額程度と、大きく開きがあります。
鑑定調査にあたった射場一之氏は、
知識がなければ見分けるのは難しいが、専門家が見れば一目瞭然。
『マグロ』と『カツオ』ほどの違いがある。
射場氏
とのコメントを読売新聞に残しています。
3.墓石の産地偽装であることを確信
墓石の産地偽装だ!
Aさん
Aさんは、そう確信しました。
そして、墓石を購入した業者に「産地証明書」を発行してくれるよう求めました。
しかし、届いた産地証明書には採石業者や加工業者の名前の記載はなく、墓石を販売した小売業者の名前のみが記されたものでした。
さらに、その産地証明書の原石名の欄に記載されていたのは、「日本を代表する銘石の一つ大島石」という形容詞付きの原石名です。
通常の証明書に、このような「日本を代表する銘石の一つ…」なんて付けないですよね。
ここからして、もうすでに胡散臭い雰囲気が漂っています。
ついに、Aさん夫婦は大阪府警に被害を届け出たのです。
4.業者側の苦し紛れの怪しい言い訳
大阪府警が鑑定した結果、墓石に使用された石は、やはり「大島石」ではなく韓国産であることが判明しました。
大阪府警は2009年(平成21年)12月に不正競争防止法違反(産地偽装)容疑などで、墓石を販売した業者の事務所を捜索しました。
朝日放送の記者のインタビューに答えた墓石販売業者の社長はテレビに向かって・・・
長いことやってましたけど、てっきり騙されましたわ。その時に大島石の一番良いものでお願いします、ということでお願いしたんですよ。
結果的に彼を信じきってたもんですから…
偽装業者
「ほんまかいな」と言いたくなるくらいのコメントですね。
この墓石販売業者の社長が言う「彼」とは、墓石の仕入れ先である卸売業者のことのようです。
しかし、これは「石材店が石を見分けられない」と言っているようなものです。
本物か偽物かを見分けられることもできずに、はたしてプロと言えるのでしょうか?
また、墓石販売業者の社長自らが発行した「産地証明書」についても・・・
原産地証明は墓石を販売した小売店が印鑑を押して出すものだという卸売業者からの説明だったので、私の印鑑で出した。
偽装業者
このように、産地証明書についても、卸売業者に言われるままに書いたと説明する社長ですが、ますます怪しい感じです。
で、その卸売業者に朝日放送が取材をしたところ、
その石材店と石の種類について話をしたことは一度もない。
石を運ぶ注文を受けただけ。
卸売業者
と、これまた怪しい。
石材店と卸売業者、はたしてどちらの言い分が正しいのやら・・・
5.お墓のトラブル相談は年間1000件超!
最終的には、Aさんは墓石を販売した業者に、支払った購入代金の全額を月々返済させる約束を取り付けました。
なんと、全額一括ではなく分割返済とはビックリですね。
そして、2010年(平成22年)1月、捜査書類を大阪地検に送付し捜査を終えました。
Aさんは墓石を撤去し、改めてお墓を建立する予定とのことのようです。
讀賣新聞の取材に対しAさんは、
示談はしたが、お墓を使ってだますような行為は今でも許せない。
Aさん
と、憤っていたとのことです。
読売新聞の記事によると、
国民生活センターによると、墓石に関する苦情・相談は、2000年度は686件だったが、2005年度には1308件と倍増。その後、高止まり状態が続き、2008年度には1414件、2009年度は1364件だった。
内容は「建立してすぐに石が欠けた」といった品質に関するトラブルのほか、「内金を支払った後、業者に電話がつながらなくなった」「相場より数百万円も高く購入させられているようだが返金してもらえるのか」といった購入代金に絡むものが多いという。
引用元:「讀賣新聞」2010年(平成22年)5月7日号
その後の2015年の調査では、一般消費者からの国民生活センターへの墓石関係の相談は1,192件。
ちなみに、類似業界の仏壇関係は608件、葬儀関係は617件となっており、墓石に関する相談はこれらの倍近くになっていることになります。
同業者である私たちにとっては、あまり喜ばしい数字ではないのですが事実なのです。
6.まとめ
この事件は、「不正競争防止法違反(産地偽装)容疑」という、りっぱな犯罪として、大阪府警による捜索を受けました。
墓石を巡る偽装疑惑は「産地偽装」だけにとどまりません。
- 石のランク(等級)
- 墓所での手抜き工事
など様々です。
「故人のために少しでも良いお墓を建ててあげたい」
そんな想いにつけ込む卑劣な行為。
消費者の知識が少ないことを逆手にとり、利益を得ようとする悪徳業者。
やはり、後悔しない満足のいくお墓づくりのためには、石の種類や墓石のデザインよりも、まずは信頼できる石材店を選ぶことが最も重要なのです。
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