中国産墓石の品質低下は行員不足と日本人の安価追求が原因
平成の初め頃から、コストダウンを目的に中国でのお墓はづくりが始まりました。
その場所は、今や世界最大の石のマーケットとなった、中国南東部に位置する福建省の沿岸部です。
このあたりは、元より石との関わりが深い地域であり、そこに日本の技術と加工機械を導入したのです。
こんにちは。(一社)日本石材産業協会認定「1級お墓ディレクター」の能島孝志です。
兵庫県神戸市で、“カロート(納骨室)に水が入らない特許構造墓石”『信頼棺®』を販売する、(株)第一石材の代表を務めさせていただいております。
のじま
当時の中国は、今ほど裕福ではありませんでした。
それゆえに、中国の中でも特に貧しい内陸部から、墓石加工に従事する行員目当てに多くの出稼ぎ労働者が集まってきました。
彼らは、日本からの要望に何とか応えようと、劣悪な労働環境の中で連日連夜仕事に励みました。
そして、加工技術のレベルもどんどん良くなっていきました。
それを良いことに、日本側も安価で無理難題を当たり前のように押し付けるようになりました。
それでも、工員たちは頑張って墓石をつくり続けました。
お金が要るからです。郷里で待つ、家族に送るお金が必要なのです。
2000年くらいまでは、こんな状況が続きました。
おかげで、私たち日本人は、安くて比較的良いお墓を手にすることができたのです。
そう!過去形なのです。
今の中国たるや、日本を抜いて世界二位の経済大国です。
そんな国に、安くて良いお墓づくりを求めること自体、無理があるのです。
中国産墓石の品質低下は、中国が裕福になったゆえの工員不足と、日本人がより安い品を求める傾向にあることが大きな原因なのです。
目次
1.中国も「金のたまご」時代は終わった
平成の初め頃から始まった中国の石材加工工場による墓石製品の加工。
それが、近年では加工に長く係わってきたベテランの熟練工員がどんどん辞めていき、常に新しい行員を補充しながら続けていくしかないという工場も多数あります。
その結果、経験の浅い新人に製品をつくらさなければならない状況に追い込まれ、墓石を中心とする石材製品の加工精度や、品質の低下を招く原因にもなっています。
以前とは違い経済的に豊かになった現在の中国では、いくら生活のためとはいえ、「朝から晩まで仕事漬けの毎日なんて我慢できない」という人たちが増えています。
事実、今では、ほぼどこの工場も残業なんてする行員はいません。
日本もその昔は、石炭の採掘にかかわる炭坑夫などの仕事は、常に命の危険にさらされている危険極まりなくきつい労働でした。
その後の昭和30年代から40年代の、いわゆる高度経済成長期には、「金のたまご」と称される若者たちが日本の労働力を支えてきました。
平成の初め頃の中国も、まさに「金のたまご」状態でしたが、世界二位の経済大国となった今では、仕事に事欠きません。
中国も、「金のたまご」時代は終わりを告げたのです。
2.日本の若者も中国の若者も同じ
日本も時代が変わり、現在では週休2日制が当たり前になったのと同じく、中国でも充実した“アフター5”を過ごしたいと考えている人は少なくありません。
このような状況になってくると、当然立場は経営者側より働く側の方が強く、一部の地域では様々な工場の行員が集まって労働組合のようなグループを作り、賃金交渉から集団で他の工場へ移籍、ストライキとあらゆる問題が起こっています。
墓石等の石材製品の加工基準や精度の問題についても、あまり細かく言って工員に辞められたら困るので工場側も強く言えず、かなりひどい製品がつくられている工場も時々見受けられます。
製品の加工精度の問題はある意味では国民性の違いもあり、日本側が極端に安い金額でつくらせている場合などは止むを得ないでしょう。
いずれにしても、「3K」と呼ばれる仕事に従事する人が少なくなっている点では、日本が歩んできた道と同じだといえるでしょう。
劣悪な環境の石材加工工場で働くより、たとえ給料が少なくても、エアコンのある部屋でパソコンを前に事務的な仕事をするほうが良い、と考える若者たちがここ近年中国では急激に増えつつあります。
1980年代に導入された一人っ子政策からすでに30年以上が経過し、労働人口が減少しつつある中国に墓石の加工をゆだねていく以上、今後も価格が上昇していくものと考えておいても不思議ではないでしょう。
3.今や安くて良い中国加工の墓石はない
中国でのお墓づくりは、石の種類と量が同じならば基本的には何をつくっても値段は同じなのです。
つまり、四角い石を数段積み重ねただけの加工が簡単な和型墓石も、ありとあらゆるところに装飾加工が施されたデザイン墓石も、石の種類と量が同じなら値段は同じというわけです。
しかし、この価格設定はさすがにおかしい、と感じた石材加工工場は基本単価を上げると共に、複雑な加工については別途加工賃を取るようになりました。
それによって、中国の石材加工工場は、値段の高い工場と極端に値段の安い工場に分かれてきました。
値段の高い工場は、加工に関する要求も厳しいかわりに、行員に対する賃金も高いのです。
どちらの工場でつくられるかは、お客様の予算にもよりますし、石材店の考え方も影響してきます。
- 消費者は、石材店相手に値切って、値切って、値切り倒す。
- 石材店は、石材商社にしつこく値段交渉をする。
そうなると、必然的に値段の安い工場を選ばざるを得ません。
当然ですが、良いお墓が出来るはずがありません。
お墓は、自然素材である石を一つひとつ人の手でつくり上げていく必要があるため、規格品を大量に生産する工業製品のようにはいかないのです。
4.まとめ
石材商社を相手に値切り倒せば、良い製品ができないことくらい、石材店なら知っているはずです。
でも、競合に負けたくないから値段勝負に打って出るわけです。
消費者は、石材店を値切り倒して、とことん安くお墓を買ったとしても、品質が悪ければ文句を言います。
たとえ、値段は安くても、良いモノを望むのです。
しかし、これは日本人的な考え方です。
中国人は日本人みたいに甘ちゃんじゃありません。
お金に関しては極めてドライな民族です。
「安い値段で良いモノをつくる」なんて考えは到底ありません。
ましてや、近年のように工員不足となると、なおさらです。
技術力の高い行員は、賃金と環境の良い工場を選びます。
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